迷宮の魂


「どうして俺みたいな男を選んだんだ?あの人もそうだった。何故、俺なんだ?俺は愛されるだけの人間なのか?今になって思い返してみても、あの人が俺を愛した理由が判らないんだ」

「純さんは、その人をどうして愛したん?純さんの理由はなんなん?」

「俺を……こんな俺を愛してくれたから……」

「それで充分やない。うちかて一緒や。あんなあ、さっきのうちの答えやけど、初めて純さんに抱かれた時な、純さん、ずっとうちの目え見てたやんかあ。嬉しかったんよ。でな、ぱっと頭の中で弾けたんや。あっ、うちはこの人を愛せるって……」

「同情とか憐れみじゃなかったのか?」

 そう言って彼は手首をルカに向けた。

「それ見て気になったんは確かにあるけど、同情や憐れみだけで人を愛そうなんて思えへんもん。きっかけにはなってもな。純さんを愛した人かて、きっとそうやと思う」

「もう一つ聞いてもいいか」

「うん」

「俺という人間は、今迄人を幸せにしてきた事がない。不幸にばかりさせて来た。おふくろも、好きになった人も……それに、父親もだ……」

「それは、純さんがそう思ってるだけとちゃう?世の中には、ちゃんと幸せを分けて貰って感謝しとるもんがおるよ。少なくとも、一人はここにおる……」

 うなだれたままの彼は考えた。

 この女は俺に胸の内を曝け出してくれている。けれど、俺はそれが出来るか?

 また同じ悲しみを味わう事にならないか?

 俺の全てを曝け出せば、この女にも俺と同じ重荷を背負わせてしまう事にならないか?

「自分一人で、何もかもしょいこまんと、少しはうちにも分けてえな」

 まるで心の内を見透かされたようなルカの言葉だった。

「……同じだ」

「同じって?」

「前も同じ事を言われた」

「純さん」

「芳子……」

「どうしたん?」

「重いぞ。それでも一緒に背負ってくれるか?」

 彼の口が初めて己の全てを語り始めた。