迷宮の魂


「本気で死ぬつもりで俺は手首を切ったんだ。けれど、死ねなかった……生まれて初めて人を愛した……一生かけてその人を愛そうとしたんだ。でも、その人は突然死んでしまった。その時、俺は思ったよ。この人は、俺と出逢ってなければ死ぬ事はなかったんじゃないかって……それで、死のうとしたんだけど、死に切れなかった」

「……」

「俺にとっても、こいつは……」

 そこで言葉を途切らせた彼は、ルカの左手首と自分の左手首とを交互に見つめた。

「君と同じさ。そういう思い出しか残してくれなかった」

「純さん」

「ん?」

「けど、その人とは楽しかった思い出とかもあったんでしょ?」

「少しだけどね」

「続き、つくろ」

「続き?」

「どんなん頑張っても、うちがその人の代わりにはなれへんけど、新しい思い出なら、うちとでも作れるやん」

「芳子……」

「初めてやな……」

「何が?」

「うちをほんまの名前で呼んだの……」

 ルカはその後に続けたかった言葉を喉元で詰まらせた。

「一つだけ聞かせてくれ」

 彼はそう言うと、座り直して彼女の両手を握った。