ルカが生理で仕事を休んでいたある日、彼もたまたま仕事にあぶれて休みになった。
昨夜から雨が激しく降り、出掛ける気にもならない。日がな一日部屋でする事も無しに二人でテレビを観ていると、
「うちなあ、いっぺんでええから好きな人と旅行とかしてみたいねん」
ルカが何の脈略も無しに言ってきた。
「あかん?」
気乗りしない話題なのか、彼はその事には答えず、黙ってテレビを観ていた。
「お金なら心配あらへん」
無言でいる彼に構わず、ルカはバックを取り出し、預金通帳を差し出した。
「純さんのも貯金しとるんや……旅行があかんのやったら、ちょっと出掛けるだけでもかまへんのよ。純さんが行った事のあるお店とか、ほら、この前テレビ観てた時に、ここ自分が住んでたとこやって言ってた街があるやろ、そういうとこでもええねん。一緒に手を繋いで歩くだけでもええんや……」
最後の方は哀願するような口調になり、消え入りそうな声になっていた。
彼は考えていた。
彼女と暮らすようになって、まだそれ程の月日が経っている訳ではないが、これまで我儘めいた事は何一つ言った事が無かった。それが、今日に限って何時もと違う。
「うちな、ちゃんとしたデートゆうもんをした事ないねん……25にもなっておかしいやろ……」
ルカは手首の傷跡に目を落とし、
「この傷の相手ともな、考えてみたらまともなデートとかした事ないねん……せわしなくセックスして、そんなんばっかりやった……思い出す事ってそんなばっかりゆうの、なんや惨めに思えて。忘れてしまいたい相手やのに、お風呂とかでこの傷を見るとな、そんなしょうもない事しか思い浮かばへん……消したいんや、そういうのんを全部消したいから、新しい思い出を作りたい思うてんねん。やっと、そういう思い出を作れそうな人と巡り逢えたんやもん」
ルカの瞼に涙が溜まっていた。泣くまいとして堪えていたが、溢れた涙は彼女の頬に幾つもの筋を作った。
「ごめん……」
彼がテーブルにあったティッシュを取り、ルカに渡した。そして、彼は自分の左手首の傷を見せながら話し始めた。



