「東京の人って、シャイな人が多いよね。うちな、生まれは松山なんやけど、大阪でずっと仕事してたんよ。大阪の人は開けっ広げ過ぎて、うちの性に合わん」

「松山って四国のかい?」

 珍しく男が聞き返して来た。

「そや、けど市内やのうて、道後の方やけどな。温泉で有名なとこやけど、行った事ある?」

「いや、箱根より向こうには行った事が無い」

 何時もと違い、今日は幾らか会話らしくなっている。

 ルカは少し気が楽になり、思いつくままに話し続けた。

「けど、勿体無いんちゃう?」

「何が?」

「お金……何時も何もせえへんと、時間までこうしてて。普通のお客さんは、はろうた分の元はとらなあかんみたいに、そりゃあがっつくのに。お客さんみたいな人、そうおらんもん」

「別にしたいと思わないんだ」

「うちやから?」

 そう尋ねてみたが、そんな事は無い筈だとルカ自身は思っていた。自分の事が気に入らないのであれば、こうして四回も指名はしないだろう。

 何か別な理由かも知れない。

 ひょっとしてインポちゃうやろか、と考えて、まさかなと自分で噴き出しそうになった。そう思ったルカを察してか、

「女を抱きたいというより、一緒に居たいという気持ちの方が強いんだ。飲み屋の女じゃこっちの方が気を遣う。君は横に居ても気を遣わなくて済むんだ」

 と、男は照れたように言った。

「あはは、良く言えば飾らんけど、うちはただのがさつな女やからな。まあ、それでもうちみたいなもんでも気に入ってくれたんなら嬉しいわ」

 男はルカの言葉を聞いて微かに微笑んだ。だが、その笑みも直ぐに消え、苦しげな表情に一転した。すると、おもむろに立ち上がり、トイレへ駆け込みげえげえと吐き始めた。