ルカは、この客を正直言って薄気味悪く感じている。一緒に居る間、殆ど会話らしい会話もせず、身体にすら触れようとしない。セックスをする為に自分を部屋に呼んでいるくせに、これ迄一度も求められた事が無い。初めてついた時は、かなり酔っていた様子だったのでそういう事も珍しくないから、時間いっぱいルカが一人で喋っていた。

 それが二度三度と続くと、さすがにルカの方も首を傾げた。この仕事を好き好んでしている訳ではないから、見知らぬ男と肌を合わせるのは苦痛だ。だが、指名までされているのに抱かれずに帰るというのも何だか妙な気分になる。

「何時もありがとう」

 男にそう言うと、ルカは部屋の隅にあるソファに腰を下ろした。

 男は俯いたまま小さく頷いた。

「今日もせえへんの?」

 ルカは思い切って聞いてみた。

 男の顔がゆっくりとルカの正面を向いた。険しい表情で、凍るような冷たい眼差しがルカを射竦めた。

「ごめんなさい」

 思わずルカはそう口にした。金縛りにでもあったかのようにソファで固まったままでいると、男の表情が少しだけ優しげに崩れた。

「どうして謝る?」

「なんや、怒られたかと思うて……」

「怒られるような事、何もしてないだろ」

「そやけど……ほんまに怒ってへん?」

 男は何も言わず煙草をくわえた。

 ルカは自分の100円ライターをバックから取り出し、火を点けて上げようとした。

「気を遣わなくていいよ」

 気まずい空気が漂う。

 この客にはとりつく島も無い。余り馴れ馴れしいのも考え物だが、こういうタイプの客が何を望んでいるのかが判らない。正直、長い時間二人きりで居て何もしないというのは辛いものがある。

 無口な客は結構居る。会話が無くともする事をしている分には、それで時間が勝手に進んでくれる。

 それでもルカは気を取り直し、何とか場を和まそうと話し掛けてみた。