どれ位気を失っていたのだろうか。

 冷え冷えとした空気に自分の下半身が曝されている事に思い至り、智恵美は力の入らぬ両腕を懸命に動かそうとした。

 身体を起こそうとすると、一気に血の気が頭から引くようで、仕方無くその場でじっとしている事にした。

 和也さん……

 早く、早く帰って来て……

 意識をしっかり持とうと、智恵美は念じるかのようにこれまでの事を思い浮かべた。

 和也を追って東京へ出て来た、この一ヶ月余りの出来事よりも、浮かんで来る事は釧路での思い出ばかりであった。

 思い返してみると、そう多くない思い出である事に気付いた。

 これから……

 これからなのよね……

 二度目の激痛が襲って来た。

 一度目よりも遥かに重い痛みに、智恵美は声にならない悲鳴を上げた。

 薄れ行く意識。

 全身の血液が、一気に吐き出されて行く感覚になった。

 か、和也さん……

 彼のはにかんだ顔が段々と霞んで行く。

 尚美、絵里香……

 ママを許して……

 瞼を開けている筈なのに、智恵美は視界が闇に覆われたのを感じた。