二人の新しい生活が始まった。

 和也の愛し方は、全てがぎこちなかった。気遣う気持ちの表し方、智恵美を思い遣る時の全てが、それを物語っていた。

 それは、愛される事についても言えた。

 智恵美が彼に見せる、さり気無い日常の中での愛情表現にさえ驚き、そしてどう応えるべきかを必死になって考えているようにさえ感じられる。

 人によっては、それを重いと感じるかも知れないが、智恵美は寧ろ微笑ましく感じ、受け止めようとした。

 彼の生い立ち、歩んで来た人生を聞かされるに従い、
     
 この人は、人を愛する事をおそれていたんだわ……           '''
              
 それだけじゃない、人から愛される事も……

 という思いを抱いた。
                                        
 そのおそれを、彼は私を愛する事で必死になって消そうとしている……       
                          
 二人の娘を手放してしまった事への罪悪感、それを和也に感じさせないようにと、智恵美は努めた。

 自らを責めるのはいい。

 だが、彼をその事で苦しめてはいけない。

 そういった思いが、和也にも痛い程伝わった。

 お互いに、一日というものが、相手を思う気持ちで埋め尽くされた。

 今日という日を智恵美の為に……

 和也の為に……

 その積み重ねが、明日となる……

 こんな愛し方、愛され方を、智恵美は初めて知った。

 季節に例えるなら、それは何処か故郷の冬を思わせた。峻烈な寒風に曝されながらも、何時かは訪れるであろう春の陽射しを待つ二人。互いに身を寄せ合い、吹き付ける風から守り合う。一人では凍えてしまうけれど、二人寄り添っていれば……

 こういう幸福感もあるのだなと、智恵美は思った。そして、きっと和也も同じ思いでいるだろうとも。