「同情だったんだ……」
「どういう事?」
「貴女が僕を愛していると言ってくれたのは、憐れみから出た言葉だったんだ。僕の過去に憐れんだだけなんだ」
「それは絶対に違うわ」
「違わなくない」
そう言って和也は智恵美に背中を向け、ドアを閉めようとした。
「待って!」
引き止めようとする智恵美の腕を振り解き、和也は、
「ジェムズを辞めた。釧路を出るんだ」
「え?」
「さよなら……」
夜の闇の中に和也の背中が消えた。
和也が釧路を出、東京へ行ったのはそれから一週間後の事だった。母親にも行き先を告げず、黙って飛び出した。
観察所の許可を得ず居住地を出た為、保護観察は停止となった。所在が判明すれば仮釈放が取り消され、再び刑務所に収監される。
一度だけ和也は智恵美に手紙を書いた。
そこには、東京の吉祥寺で暮らしていると書かれてあり、暗に智恵美が来てくれる事を望んでいた。



