「これ、私からの奢り。で、どう違うの?」
和也は注がれたグラスを手にしたまま、何をどう答えるべきか言葉を探していた。
「おふくろが、単に心配性とかとは違うの、判るよね」
「そうねえ、見る人からするとちょっと異常かなって思えるかも。私は貴方からお母様との複雑な事情を聞いているから多少は理解出来ない事もないけど」
「確かに、この前話した事情もあるけど、でもそれだけでこんなにも心配されるって変だと思わない?理解出来ないでしょう?
もっと別に理由があると思わない?思うのが普通だよね……」
「……」
「みんな、僕がどういう人間か知らないから……」
和也は苦しそうに言葉を搾り出した。
智恵美の手がそっと和也の手に重なる。
柔らかく温かい手。
和也が智恵美の顔をそっと見た。
智恵美が見つめる瞳に促されるように、和也はゆっくりと話し始めた。
「僕は……僕は、人殺しだったんだ……」
和也の話は智恵美にとって衝撃以外の何物でもなかった。しかし、その事で彼に嫌悪感を抱くといった事は少しも無かった。
話しながら途中で声を詰まらせ、涙を浮かべ始めた和也の肩を智恵美は知らず知らずのうちに抱き寄せ、言葉を途切らせたその唇に、自ら唇を重ねた。
互いにはっと我に返り身体を離すと、
「ごめんなさい」
と和也は言葉を残し、ポケットから千円札を数枚出して席を立った。
「……明日も必ず来て」
智恵美は和也の背中にそう言った。



