それから一週間ばかりリバーサイドに和也の姿は見られなかった。
智恵美は気になり、まだカットするには早いと思ったが、和也の店に行ってみた。行ってみると和也は暫く休んでいて、入院している事が判った。風邪をこじらせて肺炎になってしまったらしい。
智恵美は入院先の病院を教えて貰い、その足で向かった。訪ねてみると和也はベッドに半身を起こしていた。
「こんにちは」
「智恵美さん……」
「お店で聞いてお見舞いに来てみたけど、大丈夫なの?」
「風邪こじらせたみたいで。でも、もう熱も下がったから」
思い掛けない見舞い客だった。智恵美も和也の表情からその事を察した。
「私が来て驚いた?」
「ええ、まあ……」
智恵美は見舞い用に持って来たメロンを手に取り、
「栄養つけたら。ナイフとかある?」
と聞いて来た。
「あるけど……」
和也の口振りが何故か迷惑そうに感じた。
「和也、お店の方?」
智恵美の背中越しに女の声がした。声の方に振り向いた智恵美は頭を下げた。
敬子であった。和也が働いている店の同僚かと思った敬子は、智恵美を見た瞬間、表情を硬くし曇らせた。
「河村と申します。何時も和也さんにはお世話になっていて」
そう挨拶をした智恵美を見つめ、敬子は無言のままでいた。
和也が場の空気を感じ取り、母ですと紹介した。智恵美は、理由は判らないが、自分が敬子に良い印象を与えていないと直感し、手にしたメロンを袋に戻しながら、
「つまらない物ですけど、どうぞ」
と言って立ち去ろうとした。差し出した見舞いの品を受け取ろうとしない敬子の態度に、理由の判らぬ智恵美は腹立たしさを感じた。手にした袋をベッドに置き、
「じゃあ私はこれで、和也さんお大事に」
と言って病室を後にした。



