「お子さんと一緒のところにお邪魔じゃないんですか?」
「邪魔だと思ってたら声も掛けてないわよ」
和也は二人の娘達に紹介され、デパートの最上階にあるレストランへ付いて行った。
智恵美の娘達は、和也に対し人見知りする事もなく、直ぐに打ち解けた。寧ろ和也の方が、そういう開けっ広げさに戸惑ってか、終始緊張していた様子で、それが智恵美にも判った。
和也は昔から他人の輪の中に入るという事が苦手だった。何をどう話せばいいのか判らないから、どうしても無口になってしまう。自分の事を話すという事自体がそもそも苦手だった。それでも暫くするうちに、子供達の天真爛漫さと人懐こさもあってか、和也の心は少しだけ開いていった。
「最近、佐多さんの雰囲気が変わったねってバイトの子達とも噂してるのよ」
「僕の?」
「そう」
「僕は、周りからどんなふうに見られてるんですか?」
会話の繋ぎに何気無く言った智恵美の言葉に、和也は傍目にも判るほど過敏に反応した。そういえば、店に来た時も割りと人の目を気にする部分が感じられる。
「話すようになった」
「え?」
「佐多さんて、毎日お客さんと接してるお仕事してるのに、全然社交的じゃないよねって、バイトの子が言ってたの。私もそうかなって思ってたんだけどね。
でも、最近は他の常連さんともいろんな話をしたりしてるし、結構話題も豊富じゃないかって。意外と冗談も言うし、根は明るい人なんじゃない」
「暗い奴だって、思われてたんだ……」
「元々の性格は違うんじゃない?殻に閉じこもってるだけで、本当の自分を見せていないだけなのかなって私には見えるの」
「……」
「今なんかでも、尚美達とよく喋ってたでしょ。話してる時の佐多さんの顔、すごくいい感じよ」
殻に閉じこもる。確かにそうだ。でも、閉じこもらなければならない理由がある。それも、むやみやたらに話せない理由が。
「人の本当の姿なんて、そんな簡単に判るんですか?」
言ってしまってから和也は後悔した。何となく気まずくなり、引き止めようとする子供達に、ごめんね、と言ってその場を逃げるように席を立った。



