何時もの時間に和也が現れないと、気もそぞろになる。毎日のように顔を見ているからか、店が休みの日は何だか寂しい。
和也に好意を抱き始めている事は自分でも自覚しているが、まだはっきりとした恋心とは呼べないものだ。智恵美自身がそうならないように、気持ちに歯止めを掛けていた。
彼を見る眼差しが、どうしても他の客達とは違ってしまう。無意識のうちに彼の方ばかりを気にし、はっとして我に返る。特に、夫が店に居て一緒の時はわざと和也の近くには寄らない。
篤は智恵美のそんな心の揺れ動きなどまるで気付かず、四六時中店の事ばかりに没頭していた。
リバーサイドの定休日は月曜日で、智恵美が唯一家事に専念出来る日だ。
12月最初の月曜日。智恵美は尚美と絵里香を連れ、久し振りに買物に出掛けた。
このところ店の方が忙しくて構ってやれてなかったせいか、二人の娘のはしゃぎ振りは普段以上だった。
デパートで子供達の新しい服を何着か買った後、夕食はデパートのレストランでと思い、エレベーターへと向かった。丁度その時、フロア中央のエスカレーターを下りて来る和也と出くわした。
彼の方は智恵美に気付かずに、そのまま行き過ぎようとした。智恵美は、
「ちょっと待っててね」
と言って尚美に絵里香の手を繋がせ、和也の方へ駆け寄った。
「佐多さん」
突然声を掛けられた和也は、声の主を見て驚いた。
「お仕事は?」
「月曜日が僕の公休日なんで……」
「お買物?」
「ただぶらぶらと……家に居てもする事がないから」
エスカレーターの前で立ち話をする二人の横を通りながら、あからさまに邪魔だなという視線を寄越す客達に気付き、
「じゃあ……」
和也はその場を立ち去ろうとした。
「うちの子も一緒だけど、よかったらお茶でも飲まない?」
思い掛けない誘いだった。



