真剣な眼差しで鮮やかにカットしていく姿を見て、智恵美は、ちょっと、いいなあと思った。
肩まであった髪を襟元まで短くした。自分でも驚く位、雰囲気が変わっていた。
前より華やかになったが、上品な感じに仕上がっている。
「何だか私じゃないみたい」
「智恵美さんは顔の輪郭がシャープだけど、今までは長い髪でそれを隠してたでしょ。この方が若々しく見えるかなって……」
智恵美が気に入ったのが余程嬉しかったのか、和也は別人かと思える程に饒舌になっていた。
「さすがプロよね。本人が気付かない魅力を見つけてくれるんだもの」
「そりゃ、毎日見てるから……」
と言った和也は、自分の言葉に顔を赤らめた。
子供みたい……
智恵美はそんな和也を可愛いなと思った。
リバーサイドが休みじゃない限り、和也は顔を見せた。ライブがある時も、満席になった店内の壁際に立ちながら最後まで見ていた。
ある夜のライブでは、店の入口迄客が立ち見で埋まり、仕事で開演時間に間に合わなかった和也を智恵美はカウンターの中に招き寄せた。
右隣に立つ彼は、思っていた以上に背が高いのだと知った。和也の身体からは美容室特有の匂いがする。智恵美はほんの少し下がり、斜め後ろから彼の横顔を覗き見た。
ライブ用に暗くした照明の中で、彫りの深い顔立ちが薄っすらと浮かんでいた。時折見せていた少年のような輝きとは違う、暗く深い海を思わせるような哀しみの色がそこにあった。
じっと見つめていると、胸の奥が締め付けられそうで、思わず怖いと呟いた。声に出したつもりは無かったのに、今の呟きを聞かれたのか、和也が、え?というような顔で見つめ返してきた。
瞬間、互いの視線が絡み合った。どちらからともなく視線を外した時、バンドの演奏が終わっていた。
何も無かったかのように拍手をする二人。
アンコールを求める客達の合唱。
それまでより半歩だけ和也に身体を近付けた。拍手を止めて下ろした手が、長袖をたくし上げて露になった和也の二の腕に触れた。
ビクッとした和也は腕を引いた。
智恵美は無意識のうちに彼の左手の指先をそっと掴んだ。
智恵美の心の中に、和也の存在がはっきりと意識された瞬間だった。



