迷宮の魂

 リバーサイドは昼の12時からオープンし、ライブがなければ夜の10時には店を閉める。

 ルージュは夜の7時にオープンし、一応深夜の3時閉店なのだが、客が居れば4時とか5時迄開けている。

 智恵美は二人の娘を学校と幼稚園に送り、昼から夕方迄リバーサイドに出る。子供達に夕食を食べさせ、再びリバーサイドに戻り閉店迄残る。

 ルージュに顔を出す時は子供達を寝かし付けてからだから、夜の10時過ぎ位から酔客達の相手をした。

 かなりのハードワークだが、自分から条件を出して決めた以上、音を上げる訳にはいかなかった。

 リバーサイドは名の知れたアーティストのライブの時は足の踏み場も無い程に客が入るが、普段はそれ程でもない。殆んど常連客ばかりで、たまにライブをするアマチュアバンドの面々とかがその顔触れだ。

 平日の昼間だと稀にフリーの客が喫茶店と勘違いをして珈琲を飲んで行く事もあるが、昼から夕方迄客が十人を越えない日の方が多い。

 そこへ、他の常連客とは少し毛色の変わった客が足繁く通い出した。

 それが佐多和也だった。

 最初は常連客に遠慮してカウンターには座らず、決まってテーブル席に座っていた。何時も一人で珈琲を注文する事が多かった。たまに軽食を頼む時もあったが、酒を飲む事は無かった。

 彼が酒を注文するようになったのは、カウンターに座るようになってからだ。大体は夜に顔を見せるが、早くても8時頃で、9時過ぎになる時もある。遅い時間にやって来ると、席に着く前に必ず電話を掛ける。入口の横にある公衆電話で話す様子から、自宅へ掛けているのだろう。

 奥さんにでも帰る時間を伝えているのかしら?

 最初、智恵美はそう思っていた。