これまでも、ライブハウスの方は何度も店に出て手伝った事はあるが、スナックの方は開店祝いの日に顔を出しただけで、以来一度も手伝った事は無い。
元々、酔客相手に機嫌をとる事など自分には絶対無理だと思っていたし、二人の娘を放り出してまで手伝いたいとも思っていなかった。
「急にそんな事を言われても、子供達の事もあるし、第一どうやってお客さんの相手をしていいのか判らないもの」
「客の相手ならライブハウスでもやっていたじゃないか。それに、バイトの女の子が万事そつなくやってくれるから、店に出てくれるだけでいいんだ」
「それなら私が行かなくても大丈夫じゃないの」
「マスターの代わりにママが顔を出すだけさ。カウンターの中でニコニコしてりゃそれでいいんだよ」
結局、そうやって押し切られた。一度手伝いで店に顔を出すと、なし崩し的にまた出てくれとなり、今では店の定休日以外は時間を決めて出ている。それも、日によってはライブハウスとスナックの掛け持ちまでさせられた。
前にライブハウスを手伝った時もそうだったが、智恵美が店に顔を出すと華やかさが増した。誰もが美人だと認める智恵美を目当てに足を運ぶ客もいる。田舎のカラオケスナックには勿体無い位の美人ママが、客達の間で評判にならない訳が無い。
客が増えた。それで、どうせこのまま続けるのなら条件があると智恵美が篤に言った。
「今のままでは中途半端になっちゃうから、はっきりさせたいの。ルージュの方は週末の金曜だけ。他の日はリバーサイドに出る。じゃなければ手伝わない」
篤にしてみれば、売上単価の大きいルージュをメインに手伝って欲しかった。連日、智恵美目当ての客が来ているし、本人は酔客の相手は苦手だと言ってるが、バイトの女の子達よりも客あしらいが断然巧い。智恵美が出た日は、売上が二割は違う。
夫としては、他の男に媚を売る妻の姿を見るのは、余りいい気持ちがしないが、店の売上を思えばそれ位我慢出来る。それよりも、こんないい女が俺の女房なんだぞと客達に見せ付けられる優越感の方が大きい。
余り、ごり押しして二度と店には出ないと臍を曲げられるより、ここは智恵美の出した条件を呑んだ方が得だと篤は判断した。



