迷宮の魂


 店内は割りと広く、カウンター席だけでも十人は座れる。テーブル席の奥に小さなステージがあって、更にその左横にピアノが置いてあった。

 こういう感じの店は初めてだ。敬子は、つい店内を物珍しげにきょろきょろと眺めてばかりいた。

 アルコールだけでなく、簡単な食事や珈琲等もメニューにあり、敬子の横に座っていたカップルはスパゲティとコーラを注文していた。カウンターの中には、アルバイトなのだろうか、女子大生らしき女の子が三人でオーダーを作ったり接客したりしていた。

「遅くなってごめんね、子供達に夕飯食べさせるのに時間掛かっちゃって」

 扉を開けながら三十前後の女が入って来た。客かと思ったが、女はそのままカウンターに入り、来ている客達に挨拶をした。若い子達からママと呼ばれていたから、この店のオーナーなのかも知れない。敬子はそう思い、その女を食い入るように見つめた。

 すらりと伸びた長い足に、同姓が見ても羨む程に均整のとれたスタイル。

 婦人服の仕立てを長くやっている敬子は、何を着せても似合うだろうなあと、羨望の眼差しも込めてその女に目を奪われていた。

「帰ろうかと思ったけど、憧れの美人ママがご出勤ならもう少し飲んで行くか」

 客の一人がそう言うと、

「最初から帰るつもりなんて無いくせに」

 と、アルバイトの女の子にからかわれていた。ママと呼ばれた女を見て敬子は、

 この女だ……

 と閃いた。