迷宮の魂

 仕事が終わって普通に帰って来れば、和也は夜の8時には家に着く。

 毎晩その時間帯になると、敬子は落ち着かなくなる。8時前後に家の電話が鳴ったりすると、何時も慌てて受話器を取る。以前は、何処そこで誰と一緒だからと事細かに連絡して来たが、最近は

(付き合いで遅くなる)

 の一言で電話が切れる。その時、話し声に被さるかのように、けばけばしいばかりの嬌声が、耳に嫌な残り方をする。

 どうも付き合いとかでなく、特定の店に入り浸りになっているらしい。

 その店が気になって仕方なく、敬子は直接確かめたのである。理由は、足繁く通う理由を知りたかったからだ。

 たぶん女じゃないだろうか?

 敬子自身は端からそう決め付けていた。

 北本通り沿いを一本裏道に入るとレンガ色の建物があった。

 それは『リバーサイド』という横文字の看板が目に付く店で、中は敬子が想像していたよりも明るい雰囲気を感じた。女性客も結構多い。こういう店に敬子のような中年女が一人で来ると、普通なら好奇な視線を浴びるものだが、そういう事も無かった。