迷宮の魂


 家裁から和也の消息を知らされてから暫くして文通が始まった。最初に書いたのは和也の方からで、その書体はまるで自分で書いたかのようにそっくりだった。

 手紙のやり取りが始まると、敬子は時間の許す限り手紙を書いた。和也からは、刑務所での発信日が定められていたせいか、定期便のように決まった時期に届いた。5年近くのやり取りで150通を超える手紙が互いの間を行き交った。


 それらの手紙は、襖で仕切られた部屋の箪笥に大事にしまってある。

 今、その部屋に和也は逞しく男臭くなった身体を横たえ何を思っているのだろう。

 

 仮釈放の日、敬子は生まれて初めて北海道を出、本土の土を踏んだ。

 和也を刑務所の門の前で待つ間、掛ける言葉をいろいろと考えていた。結局は一言も話す事が出来ず、ただ涙を流すだけで、和也も同じようにぽろぽろと涙をこぼしていた。

 釧路までの帰路、二人は余程気持ちが興奮していたせいか、飽きることなく話し続けた。だが、良蔵の話題だけは意識してなのか、お互い一言も触れることはなかった。

 和也との新しい生活は順調だった。照れ臭いのか、初めの一ヶ月位は母さんと呼べなかった和也だったが、そんな姿も寧ろ微笑ましくさえ感じられた。保護司から言われた仮釈放期間中の注意事項もきちんと守って過ごしていたし、一番心配していた仕事の方も刑務所で得た資格が役立ち、職にも就けた。さほど多くない給料の中から、和也は半分以上を家に入れた。段々とぎこちなさも取れ、家族団欒を実感出来るようになって来た。

 秋も駆け足で通り過ぎ、冬の気配を感じ始めた頃から、和也の帰宅が不規則になって来た。それでも最初のうちは特に心配はしていなかった。勤め先の同僚との付き合いで飲みに行く機会が増えたようだ。

 もう27歳だから立派な大人だ。そういう付き合いは疎かにしない方が良いと敬子も重々承知している。そう頭で理解しているつもりなのだが、感覚的には3歳の頃に手放した時のイメージで対応し、つい構ってしまう。それに、仮釈放中という問題もある。

 何か問題を起こしてしまえば、それが刑事事件でなくても仮釈放が取り消されてしまう事がある。二年間は普通の人間以上に、自重しなければならない。