良蔵とは別れたいが、和也を手放す訳には行かない。自分が頑張って堪えればいいのだと言い聞かせるしかなかった。
敬子は仕立屋の社長に頼み、前よりも仕事の量を増やして貰う事にした。その分の増えた収入は、良蔵に知られないよう、社長個人に預かって貰う事にした。こうすれば、良蔵に家の金を持って行かれても何とか路頭に迷わずに済む。
最初の別れ話から一年が過ぎた。その間、良蔵の荒み具合は益々酷くなった。どう見ても堅気とは思えない人間達と付き合い出し、背中に刺青まで彫る始末。
尤も、最後までは仕上げ切れずに中途半端な筋彫りだけしか入れられなかったようだが。
相変わらず金の無心は続いた。幾ら仕事の量を増やし、収入を増やしたと言っても高が知れている。和也だけは飢えさせまいと、自分の食べる分を切り詰めてまでして生活していたから、とうとう敬子は倒れてしまい、入院を余儀なくされてしまった。
たまたまその時は良蔵が家に居た時で、敬子は和也の事をちゃんと面倒見ていてくれと懇願した。
「判った」
と言った良蔵を信じ切れはしなかったが、まさか三日後に和也を連れて姿を消すとは思いも寄らなかった。
そして、二人の消息を知るまで二十年もの歳月が流れた。
この二十年近くの間、敬子は二度結婚したが、いずれも相手が他所に愛人を作ったり、家を出て行ったりしたので離婚した。
男運が無いのだろう。性格的な面もあって、男に対する不信感が人一倍強くなり、何度かあったその後の再婚話を全て断り続けて来た。
和也が良蔵を殺し、服役していると知らされた時、敬子はさすがに驚いたが、それ以上に喜びの方が大きかった。
やっと和也を取り戻せた……
子供が親を殺してしまったという事実に複雑な思いを抱きはしたが、相手が良蔵ならば、それは神が与えた良蔵への報いであって、その事で和也の未来を壊す訳には行かないと強く感じた。
自分の命に代えても、この子を救わなければ……
その思いだけが今の敬子の生き甲斐なのだ。
敬子は仕立屋の社長に頼み、前よりも仕事の量を増やして貰う事にした。その分の増えた収入は、良蔵に知られないよう、社長個人に預かって貰う事にした。こうすれば、良蔵に家の金を持って行かれても何とか路頭に迷わずに済む。
最初の別れ話から一年が過ぎた。その間、良蔵の荒み具合は益々酷くなった。どう見ても堅気とは思えない人間達と付き合い出し、背中に刺青まで彫る始末。
尤も、最後までは仕上げ切れずに中途半端な筋彫りだけしか入れられなかったようだが。
相変わらず金の無心は続いた。幾ら仕事の量を増やし、収入を増やしたと言っても高が知れている。和也だけは飢えさせまいと、自分の食べる分を切り詰めてまでして生活していたから、とうとう敬子は倒れてしまい、入院を余儀なくされてしまった。
たまたまその時は良蔵が家に居た時で、敬子は和也の事をちゃんと面倒見ていてくれと懇願した。
「判った」
と言った良蔵を信じ切れはしなかったが、まさか三日後に和也を連れて姿を消すとは思いも寄らなかった。
そして、二人の消息を知るまで二十年もの歳月が流れた。
この二十年近くの間、敬子は二度結婚したが、いずれも相手が他所に愛人を作ったり、家を出て行ったりしたので離婚した。
男運が無いのだろう。性格的な面もあって、男に対する不信感が人一倍強くなり、何度かあったその後の再婚話を全て断り続けて来た。
和也が良蔵を殺し、服役していると知らされた時、敬子はさすがに驚いたが、それ以上に喜びの方が大きかった。
やっと和也を取り戻せた……
子供が親を殺してしまったという事実に複雑な思いを抱きはしたが、相手が良蔵ならば、それは神が与えた良蔵への報いであって、その事で和也の未来を壊す訳には行かないと強く感じた。
自分の命に代えても、この子を救わなければ……
その思いだけが今の敬子の生き甲斐なのだ。



