ポケットに手を入れ、所持金を確かめた。百円玉が3枚と五十円玉が1枚。それに十円玉が3枚出て来た。
寒さと空腹。駅の構内に居られるのは、あと一時間も無い。北海道に来てからずっと仕事をしていないから、蓄えていた金も底を着いてしまった。
このまま野垂れ死ぬのも悪くないかとも思った。
皮肉なもので、生きる事を諦めようとすると、身体が勝手に生きようとする。
死んでも構わないという意思を消し去ったものの一つに、彼女の存在があった。
最初に見た時には、まさかと思ってしまった。
智恵美……
思わず近付いてそう声を掛けそうになった。
そんな訳は無い。
何度かその女の後をつけ、家を調べた。
表札の名前を見た瞬間、全てを悟った。
あの子か……
母親とそっくりだ。少し彼女の方が痩せているかも知れない。そういえば、小さい時から似ていた。
今の長い髪も似合っているが、母親と同じように短い髪型も良いかも知れない。
声を掛けてみたい。
掛けてどうする?
話をするだけさ。
何の話を?
智恵美の事か?
話してどうする?
どうも出来やしない……
幸せそうなあの子を、お前は苦しみの底に落とすつもりか?
………。
許して貰いたいって思っているんだな?
諦めろ。
お前は、誰からも許される人間じゃない。
「判ってる……そんな事、判ってるんだ!」
突然、待合室のベンチで大声を上げた浮浪者に、駅員が何事かと驚いた。