母親としての愛情を、ほんの少しでも和也に味合わせてやれていれば、あの子の人生は違ったものになっていた筈だ。
そういう悔悟の念が敬子にはある。
あの子を産んでしまった自分に罪はあるのだ。
今でもそう思う事がある。
特に、忘れた頃に刑事が訪ねて来た時など、尚更強く感じる。
殆どの刑事が口を揃えていう言葉は、
「もし、連絡があったら、必ず警察に知らせて下さい。匿ったり、逃がしたりすると、お母さんも罪になりますよ」
であった。
情け無い気持ちでいっぱいだった。
そんな事、あんたらに言われなくとも判ってる!
何度、そう言い返してやろうかと思った事か。
一人だけ、そういう言葉を口にしなかった刑事が居た。
10年前、一度だけ訪ねて来たその刑事は、わざわざ東京から来たと言っていた。
その刑事が聴いて来た事は、子供の頃の事や、一緒に暮らしていた時の事ばかりで、事件に関しての話は一切出さなかった。
そして、敬子が知らない東京での和也の暮らしぶりを、調べた範囲で語ってくれた。
「そういう星の下に生まれてしまった、などと一言で片付けてしまいがちですが、私はそうは思わない。人にはそれぞれ、何かしら背負うものがあります。ただ、それをたった独りで背負って行く事なんて出来ません。誰かしら、傍に居る者が支えてくれたりするから、倒れそうになっても倒れずに歩いて行けるのです。
息子さんは、そういう人間を失って来た。そして、今も失い続けている……」
言葉の重さがずしりとのし掛かって来た。そして、帰り際にその刑事が言った言葉を、敬子は十年経っても忘れない。
「私は、彼に申し訳無いと思っております。あの時、すぐ手が届くところに彼は居たんです。その時、ちゃんと捕まえて上げていればこんな事にはならずに、今頃は人生をお母さんとやり直せていたかも知れない……」
どんな姿になっていても構わないから、もう一度だけこの目で見たい……
そう願わない日は無い敬子であった。



