尚美は仕事一筋といった感じで、男などまるで眼中に無い。
そう、周りからは思われている。だが、実際には少しばかり違う。人並みに恋愛はして来たし、本当は結婚願望も無い訳では無い。
民放の地方局に勤めて10年目。周囲は、
「尚美ちゃんはなんでアナウンサー志望じゃなかったの?」
と言うが、尚美は煌びやかな表舞台よりも、裏方の仕事が好きだった。
何かを創り上げる仕事、それを求めて編成部を志望し、その仕事を続けている。
確かに尚美は、すれ違う者が必ず振り返る程の美人であった。
母親に似ている……
祖父や祖母は、自分の事をそう言った。そうなのかな、と微かに記憶する母の面立ちを脳裏に映し出そうとしてみるが、似て来たかどうかまでは判らない。
8歳になったばかりの頃に、両親は離婚した。その後、父の実家へ妹と一緒に引き取られ、大学の四年間を除き、ずっと生まれ育った釧路で生活して来た。
仕事に生き甲斐を感じているのも確かだが、恋愛や結婚に対して人よりも臆病になっていた。
臆病になってしまった原因は、多分に母親の事があるかも知れない。
尚美の母親は、夫という存在がありながら、他の男と恋愛関係に陥り、そして不幸な一生を終えてしまった。
その辺の詳しい事情は、尚美が大きくなってから知ったのだが、以来どういう訳か男を余り近付けなくなってしまった。
尚美本人はそう意識してはいないが、彼女の容姿もある程度は影響していた。
目立つ容姿でしかも美人である事を鼻に掛けない。控え目な性格もあり、誰からも好かれる。言い寄ってくる男は後を絶たなかった。
妹の絵里香などは、
「お姉ちゃん、勿体ないよ。選り取り見取りなんだからさ、どんどん恋しなきゃ」
と言って尚美の優柔不断なところを指摘する。
その絵里香は、5年前に結婚し、一児の母になっていた。
絵里香の家にたまに呼ばれたりすると、幸せそうにしている妹の姿を見て羨ましいとも思うのだが、それ以上の思いにはならなかった。



