現場に残された指紋の持ち主である佐多和也は、ある思い違いをして、自らが犯行を行ったように偽装をした……

 しかし、全てが闇に消えたまま、歳月は過ぎてしまった。

 加藤は、伊勢佐木署へと向かう事にした。

 取調室に現れた男は、初めて見る加藤に、一瞬身を強張らせた。

「この前、話してくれた例の件、この刑事さんにも詳しく話してくれないか」

 伊勢佐木署の担当刑事に促され、男は加藤に話し始めた。

 午後の取調べ時間を目一杯使って話を聴き出した加藤は、取調室を出て行った男の後姿を見ながら、深く溜息をついた。

「加藤先輩、どうです?」

「念の為、やっこさんが仲間と埋めた時期に、埼玉県警に身許不明の仏さんがあったかどうかを確認しなきゃな。しかしなあ……」

「しかし、何です?」

「いや、何でもねえよ」

 男から聴き出した内容から、事件に関係する話は聴けなかった。それに、高瀬が死んでしまっては、真相を聴き出す事も出来ない。僅かに一点だけ、高瀬がシャブでおかしくなっていた時に、

「俺はやばい事をしてしまった」

 とか、

「今度捕まると、一生ムショから出られなくなる」

 という事を言っていたと、殺した男が聞いていた事実であった。

 興味ある内容ではあるが、しかし裏付けが無い。ポン中の幻覚、妄想だと言われれば、それまでだ。

 腕組みをしながら考え込んでいた加藤の携帯電話が鳴った。

 中国人による、広域強盗団を追っている別班からの応援要請だった。グループのアジトが見つかったらしい。

 加藤は、伊勢佐木署員達に礼を言い、要請された現場へと急いだ。