迷宮の魂


 女を組み伏せ、腰を何度も打ち付ける後姿は良蔵だった。

 和也に気付いた女は、それまでの淫靡な声音を止め、ひっ、と妙な声を出した。

 目が、違うの、と訴えている。

 腰の動きを止めた良蔵がゆっくりと振り向いた。

「久し振りだなあ」

 人を嘲弄するするあの顔だ。血の気が一気に引いた。

「お前にしちゃあ随分といい女をこましたもんだな。さすがに俺の倅だけの事はあるぜ」

 言葉を返さない和也を見た良蔵は、馬鹿にしたように鼻で笑った。

「あんな餓鬼より俺のマラの方がいいだろう」

 女にそう言うと、良蔵は再び腰を動かし始めた。女は両手で顔を覆い隠し、やめてと何度も言った。

「何だよ、さっきまではよがり声を上げてたのによ。旦那の面見たとたんに貞淑な妻気取りか……。
 カズ、こんな具合のいいまんこはお前には勿体ねえ。俺がしっかり味わってやっから、ぼけっと突っ立ってねえでとっとと失せな」

 背中を向けて言いたい放題の事を言い、女体を玩ぶ事に夢中になっていた良蔵には、包丁を手にして近付いて来た和也の気配が判らなかった。

 気付いた時には既に遅かった。

 悲鳴を上げたのは刺された良蔵ではなく組み伏されていた女の方だった。

 最初の刺し傷が殆ど致命傷になった。深々と刺さった刃先は肝臓を貫いた。声も上げず、つんのめるよう転がった良蔵の身体を和也は何度も刺した。

 良蔵の血は部屋一面に飛び散り、女の裸体は返り血に濡れた。

 凶行が終わった時、和也は死体と化した良蔵の姿を見て我に返った。

 傍らで腰を抜かした女が口をぱくぱくさせている。悲鳴を上げたくても声が出ない。

 女に視線を向けた。そこに新たな殺意が生まれた。