「12日ですかあ……そうかも知れませんねえ。時間もそれ位だったかも知れない」

「最後に、林さんが事件当日、仕事から帰って来た時間をもう一度教えて頂けますか?」

「普段と変わらなかったので、夕方の6時前後じゃなかったかと思いますが」

「ええと、以前、署の方で私が伺った時には、6時20分頃と仰ってます」

「ならば、そうだと思います」

「その時、202号室には人が居る気配はありませんでしたか?」

「はっきりとはしませんが、そういう感じはしませんでしたよ」

「では、こちらのアパートから、誰か人が出て来たとか、或いは訪ねて来たような気配は?」

「少なくとも、私が帰って来てからはありませんでした」

 と、言ったと同時に林は、

「反対側の階段近くで、男の人を見掛けたような……」

「反対側?」

 加藤は、このアパートの造りを思い浮かべた。そういえば、建物の両サイドに階段があった。林が普段使うのは、203号室側の階段なのだろう。201号室側の階段は、自分の部屋に行くには、反対側になってしまう。だが、202号室は、二階の真ん中だから、どちらから上り下りしても一緒だ。

「間違いなく、反対側の階段を下りて来たんですね?」

「いえ、下りて来たところを見たのではなく、丁度、下り切った付近で見たような……余り念を押されると自信が無くなるんですが、一階の人ではなかったのは確かです」

「初めて見る男でしたか?」

「それも、はっきりとは……すいません、なんかお役に立ちそうも無い話で」

「そんな事はありません」

 加藤は林からの聴取を切り上げる事にした。

 冗談じゃねえぞ。こんだけの事を今まで黙ってたのかよ。

 誰にもぶつける事の出来ない苛ただしさを感じながら、加藤は署へ戻る道を急いだ。