森裕子の聴取は一時間程で終わった。手帳に書き込んだ内容を直ぐにでも前嶋に話したかった。腕時計を見ると、そろそろ林が帰って来る時間だ。林の事情聴取を終わらせてからにしようと、逸る気持ちを加藤は抑えた。

 林文雄は、5時半きっかりに帰って来た。もう何度となく加藤とは顔を合わせているから、別に驚きもせず、どうぞと自分の部屋へ招き入れた。

「何度もすみませんねえ」

「刑事さん達も大変ですね」

「こうやって、皆さんのご協力があるからこそ、犯人を捕まえる事も出来るわけでして」

「その犯人なんですけど、まだ捕まりそうもないんですか?」

「いえ、新しい手配写真も出来ましたから、直ぐに捕まると思います。それでですね、前回の時は余り詳しくお聴きしてなかった事なんですが、当日、林さんがぶつかった男というのは、それ以前にも何回か顔を見た事のあった男で間違い無いのでしょうか?」

「ええ。着ている物とかも一緒でしたから」

「その男を初めて見たのはいつ頃だったか憶えてらっしゃいますか?」

「いつ頃といいましても、正直、はっきりと日にちまでは憶えてないですねえ」

「では、隣に来客があったとかの記憶は?」

「昼間は殆ど留守にしいてますから判りませんが、夜は……ああ、一度、隣の声が煩くて騒がしいなあって思った事はありましたよ」

「何度か事情を伺っておりますが、そのような事を仰ったのは初めてですよね?」

「そうでしたっけ?多分、聴かれてなかったからじゃないですかね」

 加藤はそれを聴いて舌打ちをしたくなった。ひょっとしたら、まだ他にも聴き漏らしている事があるかも知れない。