検死解剖報告書についての話は更に続いた。

「写真ですからはっきりとは断定出来ませんが……衣類に付着している血液の色が、時間経過による変色をしています。解剖所見で、死亡推定時刻が午後5時から7時30分とありますが、撮影時の血痕を見た限りでは……」

「犯行直後ではないと」

「断定は出来ませんが、大動脈を切断されたのでしたら、殺害直後ならばもう少し明るい色の筈ですし、それと、衣服の血痕に光沢が余り見られませんよね。フラッシュが焚かれている割には、乾燥しかかった光沢です」

「つまり……」

「この点からも、犯行直後というよりは、多少時間経過が進んだ状態ですね。胃の中の残留物から、死亡推定時刻が午後5時以降としてあるのは、恐らく発見時迄時間の範囲を広げた為でしょう。それ以外に説明がつかない。ですから、常識で考えれば、解剖所見の死亡推定時刻である午後7時30分よりも、前である可能性の方が高いかも知れません」

「ありがとうございました」

 前嶋は担当官に深々と頭を下げ、心の中で、思わずよし、と叫んでいた。

「あのお、飽くまでも推察ですから……」

「いえ、充分参考になりました」

 これで、一つ埋められるな……

 前嶋は来る時よりも、幾分軽い足取りで科捜研の建物を後にした。