「しかしまあ、今時の若いもんはどういう頭の構造してんすかねえ。だいたいがですよ、女が一種でこの仕事を選ぶ事自体間違ってんすよ」
「加藤君、ちょっと」
前嶋が声を潜め、空いている取調室をそっと指差した。手には、三山から手渡されたレポートがまだあった。
取調室に入ると、加藤に扉を閉めてくれと言った。
「何でしょう?」
前嶋が三山のレポートかざし、
「こういうもので自分の意見を上司に具申して来るなんて、私の想像外だったな。長く刑事をやって来たが、私が若い頃は唾を飛ばさんばかりに上司のデスクに向かったもんだが」
「警察の何たるかもよく判ってないんすよ」
「これ、読んでみてどう思う?」
「どう思うって、さっき、やっこさんに言った通りですが……」
「正直言うとね、私は彼女に指摘されて、あっ、と思ったよ」
「しかしキャップは先程……」
「うん、あれは彼女の頭を少し冷静にさせようと思ってね」
「じゃあ、キャップはここに書かれてある事を?」
「100%否定しきれないと思っている。理由は、彼女が抱いている疑問を私も少なからず持っているからだよ。まあ、いずれにしても、事実関係を明らかにするには、佐多本人の身柄の確保が先決だが、それ以上に重要な鍵を小野美幸と、高瀬亮司が持っているとも思っている」
そこで一旦言葉を区切った前嶋は、加藤に二言三言、小声で指示をした。
「自分がですか?」
「うん。君が他にも仕事を抱えているのは判るが、頼むよ。私は科捜研を当たってみるから」
そう言いながら前嶋は、早く涼しくならないかなと呟いた。



