迷宮の魂



 三山にさらなる疑心を抱かせたのは、二度目の現場検証の内容であった。

 きれい過ぎる……

 余りにもきれい過ぎるのである。

 そう思わせた一因は、凶器の包丁にあった。

 佐多和也の指紋と掌紋だけが何故着いていたのか。

 殺害された津田遥自身の指紋や掌紋が少な過ぎるのは何故なのか。

 三山は、そこに一人の人物を当て嵌めてみた。恐らく、殺害される直前まで接触していたであろう高瀬亮司を。

 複数の証言から、津田遥は東京へ戻った直後から、高瀬亮司と覚醒剤の売買で接触していたのは事実であろう。

 荻窪のアパートに入居当初から姿を見せていた男とは、高瀬亮司ではないか?

 仮に、高瀬ではなかったにしろ、人の出入りがあった筈の部屋に、それらしき不明指紋や痕跡が見当たらないというのは、不自然ではないか。

 偽装……

 突然、言葉となって三山の頭に浮かんで来た。

 佐多和也は、自分が犯人だと思わせる為に偽装した?

 理由は?

 誰かを庇う為?

 普通は、自分の痕跡を消すものだ。

 慌てて飛び出した……

 そんな時間など無かったのに?

 やっぱり、無理よねえ……

 推理小説もどきな事が、実際の殺人事件の現場であるわけが無い。そう思い直してみたが、一度、偽装という疑心に行き当たると、そこから思考が抜け出せなくなってしまった。

 明日、係長に言うだけ言ってみようか……

 黒革のルーズリーフに書き殴った自分の文字を見ながら、三山は漸く決断した。