小野美幸の線を調べていた班は、彼女の足取りに繋がる情報を調べ上げて来た。
八丈島で働いていた際に、彼女が何度か郵便局のATMを使用していた事実を突き止め、その線から彼女の預金口座が判明した。
早速、出入金記録を取り寄せてみると、事件後も預金が引き出されていた事が判った。
引き出された場所は、横浜の関内駅近くにあるコンビニのATMとなっていたので、直ぐさま防犯ビデオのテープを押収した。そこに写っていたのは、紛れも無く小野美幸本人であった。
この報告を受けた捜査本部は、佐多和也が一緒に逃亡している可能性もあるとし、その事から佐多、小野共犯説を唱える捜査員も少なくなかった。
前嶋は、津田遥の預金関係も調べさせた。すると、八丈島郵便局で口座を作っていた事が判った。
出入金記録を見ると、8月9日を最後に取引されていない。
口座の残高は七万八千円弱。現場に通帳や印鑑、カード等が残っていなかったから、持ち去られたのは間違いない。
その後の出入金は一度も無かったので、結局は引き出しを断念したのであろう。
佐多は、果たして金品目的で津田遥を殺害したのであろうか。
高瀬亮司の名前が捜査線上に上がって暫くしてから、高瀬名義でブランド物のバックと財布が川崎市内の質店に、更には、婦人物の腕時計と指輪やネックレス等の貴金属が、同じく川崎市内の別な質店に入質されていた事が判った。
質入された日付は、8月18日と19日。
それらの品物を押収し、鑑識に回したところ、指紋に関してはいずれも不明指紋が多かった為、特定出来なかった。
しかし、財布から津田遥と同じ血液型の血痕が、微量ではあったが検出された事により、いよいよ事件への関連性が強まった。
捜査が進むにつれて、複雑さが増して行く状況に、前嶋だけでなく、捜査本部全体が混迷の様相を見せ始めていた。



