迷宮の魂


 中野の小野美幸の住まいは、いかにも若い女性が好みそうなワンルームマンションだった。

 オートロックである為、マンション入口のインターフォンで在宅を確認したところ、女の声で返事があった。出向いた捜査員は、一瞬本人か?と思ったのだが、詳しく聴くと、友人であるという。

 部屋の中に上げて貰い、詳しい事情を聴く事にした。

 友人女性の名前は、細田いずみといって、新潟の高校時代からの親友らしい。小野美幸が八丈島へ行っている間、この部屋の留守番を兼ねて自由に使ってくれと言われ、三ヶ月前から住んでいるという。

 その間、小野美幸はこの部屋に戻って来たかという質問に対し、自分が移って来てからは一度も無いと言った。但し、連絡は何度かあったらしい。いずれも電話で、八丈島へ行った当初は、割と頻繁に寄越したのが、7月頃から殆ど来なくなったという。

 話の内容からは、小野美幸に関する手掛かりらしきものは、何も得られなかった。

 そういった報告を聞いた前嶋は、電話の相手である捜査本部長に、小野美幸の自宅を一度調べましょうと言った。

「それと、もう一度、犯行現場を洗い直したいのですが」

 そんなやり取りを聞きながら書類を作っていた三山は、ふと、ある事に思い当たった。

 閃いたものが陽炎のように揺らめいている。

 直ぐさま自分の手帳を開いた。

 借りているデスクの上に広げられている捜査資料と、何度も読み比べた。

 別段、たいした問題では無いかも知れない。だが、引っ掛かったものは、魚の小骨のように、容易に喉を落ちて行ってはくれない。

 自分が感じた疑問を果たして皆はどう捉えるだろうか。ここ数日、加藤刑事からも出過ぎた事をするなと釘を刺されている。この事を伝える事も、果たして出過ぎた事なのだろうか。

 単なる思い付き……

 そう思われるだけかも知れない。

 でも言ってみる価値はあると思う。

 三山の中で相反するものが幾度も交錯し、その度に揺らめく陽炎が大きくなっていった。