10分もせずに、八丈署の鑑識係が到着した。鑑識係といっても、島の小さな警察署だから、専従の鑑識員ではない。恐らく、普段は別な部署に居るのだろう。
彼等の姿を見た前嶋は、麗奈にありがとうと言って、小屋へ戻った。
「指紋採取は、室内とこの部屋の遺留品で頼みます」
前嶋の指示に頷いた鑑識係は、機敏に作業を始めた。
「後は任せて、こっちは一旦署に戻るか」
三人は加藤刑事の運転で八丈署に戻る事にした。昨日、今日の捜査のあらましを書類にしなければならない。それと、他の班の捜査状況も知りたかった。
書類作成を加藤と三山に任せ、前嶋は本部に電話を入れた。彼が知りたかった報告が、本部に上がって来ているかも知れないからだ。
前嶋の知りたかったのは、小野美幸の事であった。
本物の小野美幸は何処に居るのか……
一部には、津田遥同様に佐多和也の手で殺害されてるのでないかという見方もあった。前嶋は、それは無いだろうと、漠然とだが思っていた。ただ、小野美幸の近くに佐多和也がいる可能性を信じていた。
荻窪の住所に転籍させられる前は、中野区に住んでいたようで、エリーに出された履歴書にもその住所が記載されてあった。
小野美幸が佐多和也を追って東京へ行ったのならば、自分の住んでいた所へ立ち寄った可能性があるのではないか。津田遥が殺害された日時が8月15日の午後5時から、発見された午後7時45分頃。恐らくアパートの隣人が、遥の部屋から男が出て来るところと出くわしたのが犯行時刻であろう。佐多和也と前後して小野美幸が東京へ来たのが8月11日。この4日間は何を意味するのであろう。その間、佐多和也は?小野美幸は?
佐多和也に関しては、同アパート周辺の住人からの目撃証言から、それらしき男が津田遥の部屋へ入って行くのを見られている。だが、津田遥以外の女性の出入りは確認されていない。
本部では、空白の4日間の間に中野の自宅に立ち寄った可能性が大きいと睨んでいたのである。
「前嶋です。中野の方、どうでしたか?」
捜査報告書を清書していた三山は、前嶋の電話にじっと耳をそばだてていた。
「……そうですか。その友人という女性の関係性は?」
どうも期待したような結果ではないような話しぶりだ。



