迷宮の魂



 収穫はあった。小野美幸と津田遥、そして山本直也なる男の関係。彼等の噂。一番の収穫は、津田遥がエリーを辞めた時の経緯と、島を出て間もなく山本直也が理由も告げずに休暇を申し出て東京へ行った事であり、同じ日に小野美幸の姿を岩田勝巳が空港で目撃した事実であった。

 確かな日にちに関しては、金田江里子(エリーのママ)から裏付けが取れた。山本直也なる人物が、佐多和也であるかどうかを確認した際の、彼女の反応は、岩田勝巳とは若干違っていたのが興味深かった。

 はっきりとは口にしなかったが、否定よりも肯定するような物言いであった。

 前嶋は、本部に連絡を入れ、小野美幸と名乗ったガイシャがアパートを契約した日にちと、状況を詳しく調べるように伝えるとともに、前住所へ捜査員を行かせるよう指示を出した。

「本物の小野美幸も殺害されてる可能性がありますね」

 加藤が言って来た。確かにその可能性も考えられるが、前嶋は、ひょっとしたら一緒に逃亡しているのではと考えていた。

 共犯者……

 頭を過ぎった理由は、金田江里子が話した山本直也への小野美幸の思慕であった。

 まるで、八王子の時の浪岡芳子のようだ……

 金田江里子が語るには、周囲の目も憚らず、小野美幸は山本直也への思慕の念を募らせていたという。具体的には?と質問すると、

「女の勘です」

 と答えるだけなのだが、前嶋には何と無く理解出来た。

 金田江里子の聴き取りを終えて八丈署に戻ると、三山が佐多和也の手配写真を出し、

「こちらにパソコンとプリンターはありますか?」

 と訊ねた。

「何に使うんだ?」

 前嶋が三山に尋ねると、

「この手配写真をベースにして、山本直也の特徴をモンタージュしてみようかと思っているのですが」

「そんな事出来るのか?」

「ええ、パソコンと、この写真をスキャン出来るプリンターがあれば」

 署員は、データ処理に使っているパソコンならあると答えた。

「こんな離島の署ですから、古いやつが1台だけなんです。写真の加工や修正が出来るソフトが入っていたかなぁ」

 三山をパソコンがあるデスクに案内しながら、署員は自信無さ気に言った。