「二人とも止めんか。八丈まで来て揉めてどうする。三山君、こういう聴き取りは、聴取する相手に先入観を持たせないようにしなければならないのだよ。具体的な話の中から、事実を引き出し、それを幾重にも肉付けしていかなくちゃならんのだ。さっきの君みたいに、いきなり断定的に尋ねると、聴かれた方はそうなのかなと思ってしまう。捜査では、それが一番怖い」
三山はさすがに項垂れてしまい、力無く肩を落として前嶋の話を聞いていた。
「そういう私にしても、君と同じような失敗は何度もやってるんだけどね。これは、自分への戒めでもあるんだ」
そこへいい具合に勝巳が戻って来た。手にした帳簿を開いて、前嶋に見せた。
「これが平成5年のものです。一応、その前の年の分も持って来ましたが、やはり記憶通りでした」
開かれたページには、細かい字で記入された収支の数字が記載されていた。
支出の欄に給与とあり、そこには山本直也という名前が記されていた。支払われた月は平成5年2月。1月の途中から働いたので、支払われた2月の給料は、その後の月に比べて三分の二程の金額であった。
「確かに」
「うちで暫く働いた後に、エリーのママからの頼みもあって、そちらへ移りました」
「山本……」
傍らで聞いていた加藤が、何かを思い出したようにメモしていた手帳を捲り始めた。
「加藤君、ひょっとして山本純一という名前を思い出したのではないかい」
「あっ、そうです」
「もう一つ付け加えるのならば、時効になった吉祥寺の死体遺棄容疑……」
「変死した女の結婚前の名前……」
「山本智恵美だったかな」
頷き合う二人を見ていて、勝巳は何の事だろうとぽかんとしていた。
「すいません、こちらの話でして」
前嶋は、再び勝巳に話をさせた。



