迷宮の魂

 三山刑事は、ある事を岩田勝巳に確認したくてうずうずしていた。

 前嶋も、同じ気持ちである事は間違いない筈なのに、なかなかその件を持ち出さない。それどころか、さっきから、エリーという店の話ばかりしている。

 三山はつい堪えきれなくなり、二人の会話が途切れた頃合を見計らって一枚の写真を勝巳に見せた。

「この男に見覚えはありませんか?」

 勝巳の前に差し出したのは、佐多和也の手配写真だった。

「八丈署で話された事の中に、直也という男の名前が出てましたが、その男とこの写真の男は同一人物ではありませんか?」

「三山」

 加藤が三山の袖を引いた。前嶋はそれを目でいいんだと制して、代わりに質問をした。

「どうでしょう。よく見て貰えませんか。直也という男でしたか、ええと署の方では確か、その男が事件に関係してるかも知れないと、貴方は仰っていたと思うのですが」

「確かにその話はしました。これと同じ写真は、前に八丈署のポスターとかでも見たような記憶があるのですが、その直也という男がこの男であれば、とっくの昔に気が付いていたと思うんです。何年もこの島に居ましたから」

 そう言って、勝巳は直也という男がこの島に来た経緯を話した。

「似てるといえば似てるようにも思えますが、ちょっと違うかなと……」

「その直也という男は、間違いなく平成4年の暮れ頃に、この島に来たんですね」

「それは間違いありません。その年が明けて間もなく、うちで働くようになったんですから。あっ、そうだ、彼に支払った給料の明細が当時の帳簿に残ってる筈です。ちょっと待ってて下さい」

 勝巳は帳簿を取りに、店の方へ行った。応接間から勝巳が出て行くと、加藤が直ぐさま三山に毒づいた。

「差し出た真似すんじゃねえよ。このど素人が」

「私は……」