流れる汗を拭きながら、前嶋は同行の加藤刑事と三山刑事のやり取りを聞いていた。
どうもこの二人はうまく噛み合わないコンビだ。
加藤は現場叩き上げの刑事そのものといった、古いタイプの刑事で、三山は女性ながらもキャリアの刑事だ。
二人の年齢差は一回り近くあるのだが、ただでさえ女が捜査畑に回って来る事を良しとしない加藤は、第一種公務員試験を合格し、キャリアとして拝命して間もない三山を端から無能力と決め付けている。
前嶋には、現場捜査を通して三山を教育して行く役割もある。事件捜査だけに没頭出来ればそれに越した事はないが、宮仕えともなればそれも致し方無い。
目指す岩田屋は、八丈島警察署から歩いて5分程で行ける距離にあった。
八丈島に着いて先ず署の方へ挨拶に行き、必要な情報を幾つか仕入れた。その足で今、岩田勝巳のもとへ向かっている。
岩田屋に顔を出すと、既に八丈署から連絡が行っていた為、勝巳は前嶋達を待っていてくれた。
聴き取りは、店舗裏の自宅で行う事にした。
「ごくろうさまです」
東京からわざわざ刑事が来たという事で、勝巳はかなり緊張していた。
やや肥満気味の身体を精一杯小さくし、畏まっている。
「お時間を取らせて申し訳ありません。早速ですが、八丈署でお話した事をもう一度詳しく聴かせて頂けますか」
「はい」
勝巳は何処から話そうか暫く迷っていた様子だったが、一旦話し始めると次から次へと言葉を吐き出した。中には、事件の事とはまるで関係無い話までし始めるものだから、途中で何度も前嶋が脱線しかかるのを戻した。
「新聞で見た写真は、間違いなく遥という女です。エリーには、今年の初め位から居たかと。何度も店で見てましたから、見間違える事はありません。それに、美幸ちゃん、あっ、小野美幸さんは写真とは似ても似つかない顔です。それと、思い出したのですが、あの写真は、この島で撮ったものじゃないかと思うんです」
「理由は?」
「一度、店の子達を何人か引き連れて、島の流人小屋址へ行った事がありまして、その時に私が写真を撮って上げたのと、同じようなアングルかなと思ったものですから」
そう言って、勝巳は母親に言ってアルバムを持って来させた。



