いったい誰なんだ。

 捜査員の誰もが思った。捜査の方向が迷路に嵌りそうな予感を感じ始めた。

「ガイシャの身許は不明になったが、佐多和也が容疑者である事は間違い無い事実なんだ。とにかく、奴の足取りを徹底的に洗え!」

 本部長である警視庁の捜査一課長は、そう士気を鼓舞するしかなかった。

 誰もが先行きに暗澹たる思いを抱き始めた矢先、情報が意外な処からもたされた。

 捜査本部は、他の事件同様、一般からの情報提供を求めていた。特に、今回は別な事件で手配していた人物が容疑者となっているから、マスコミ等にも協力も求めていた。

 数多の情報は、その殆どが事件とは無関係のものだったが、全てを振るいに掛けるべく、些細な情報にも裏付けを取っていた。

 そんな中で寄せられた情報の中に、興味深いものがあった。その情報がもたされたのは、八丈島警察からだった。

 新聞に載っていた被害者女性は、小野美幸ではなく、別な女性だ。

 八丈島警察の防犯課にそう言って来た人物が居る。

 名前を岩田勝巳といって、島に古くからある雑貨店の若主人らしい。信用出来る人物であるから、その情報の信憑性は高いと思うと、事情を聴取した八丈島警察署員は言って来た。

 聴取した内容をファックスで早急に送らせ、それを一読した捜査本部は、

 真ネタだ!

 と確信を持った。

 報道機関に公開された被害者の写真は、小野美幸ではなく、一時期エリーというカラオケパブで一緒に働いていた津田遥ではないか。自分は、かねてから小野美幸に好意を寄せていたから、見間違う訳が無い。

 もう一点、捜査員達を狂気させた情報が、その店で働いていた直也という男絡みで津田遥と小野美幸がほぼ同時期に島を出て行ったという事であった。

 岩田勝巳から寄せられた情報とともに、別方面からも興味深い情報が寄せられた。

 埼玉県内で逮捕された覚醒剤の密売人が、荻窪で起きた殺人事件の被害者に、何度も覚醒剤を売った事がある。一時期、自分の女にもしていた、そう供述していると、蕨署の暴犯が言って来たのである。

 前嶋は、蕨署に捜査員を送り、八丈島には自ら出向く事にした。