三山刑事は小野美幸の戸籍を遡る事にし、元の原本から彼女の親族を探し出した。

 元の戸籍原本によると、小野美幸の本籍地は新潟県の長岡市内になっていた。

 両親とも戸籍上は健在となっていて、住民票は新潟市内になっている。早速、その住所に住む小野美幸の実家に電話を入れると、母親が応対に出た。

 電話では詳しく話せないが、お嬢さんが殺されたと伝えた。電話口から感じた母親の受け取り方は、三山刑事の想像とは違っていた。

(その事件なら、こちらでも新聞やテレビで見ましたが、どうもうちの娘とは違うと思うんです)

 飽くまでも同姓同名の人物ではないかと言った。三山刑事がそう思った理由を尋ねると、報道関係に公開された写真の人物が、自分の娘とは似ても似つかない。だから、同姓同名の女性ではないかと言う。

 報道関係に公開した小野美幸の写真とは、被害者が所持していた写真を引き伸ばしたものであった。三山刑事もその現物を見ている。

 その写真は、何処かの観光地で撮ったものらしく、小野美幸の他に何人かの若い女性が写っていた。それを小野美幸の顔だけ引き伸ばした物だったから、画質が余り良くない。

 その事を思い、三山刑事は見間違い、或いは自分の娘とは信じたくない一心から、そう思い込んでしまっている可能性も考えられると判断し、一度、確認に来て下さいと伝えた。

 返事を渋る様子が電話でもはっきりと伝わって来た。

 自分の娘ではないと信じ切っている人間に、あなたの娘さんかも知れないから確認してくれと強要するのは、余り良い気分ではなかった。しかも、生きた人間ではなく、死んだ人間を見せるのである。

 遺留品も確認して貰いたいからと何とか説得し、漸く承諾が取れた。

 小野美幸の両親が、新潟から上越新幹線で東京へやって来たのは、電話をした二日後であった。

 出迎えた三山刑事と前嶋は、さすがに実際の死体は見せられないから、検死の際に撮った写真を見せた。

 見せられた両親は、一瞬怪訝そうな顔をし、次になんとも形容のし難い安堵の表情を見せた。

「うちの娘ではありません」

 荻窪署の捜査本部は、一瞬にして混沌としたざわめきと、暗鬱とした空気に包まれた。