アリスとウサギ


 最後に布巾で台を拭いていると、ウサギがドリンクのおかわりにこちらにやってきた。

 アリスは急いでその場を離れようとしたが、ウサギのほうから声をかけられてしまった。

「アリス」

 ただでさえバイト姿なんて見られて恥ずかしいのに。

 女と一緒に食事する席なんかに関わりたくないのに。

 それでも呼ばれてしまっては、振り向かないわけにはいかない。

「なに?」

 私服のウサギもそこそこだが、スーツ姿は一際カッコイイ。

 夜のテイストがミステリアスで、グイグイとアリスの気を引いていく。

「こんな時間にバイトして、帰り一人じゃあぶねーだろ」

「え?」

「誰かに送ってもらえるわけ?」

 何よ、それ。

 気にかけてくれてるの?

 心配してくれてるの……?

 アリスは胸を締め付けられ、無意識に胸元でギュッと拳を握った。