アリスとウサギ


 愛羅が来た時に放られた靴をたぐり寄せ、足を収めるとヒヤッと冷たい感覚がした。

 立ち上がり足を慣らすと、ウサギが部屋から出てきた。

「行こうか」

 アリスの言葉に、ウサギの返事はない。

 玄関の段差の前に立ち止まり、靴を履こうともしない。

「ほら、早く。遅くなっちゃう。道、混んじゃうよ?」

 急かしてみても、応答がない。

 返事の代わりに彼の両腕が伸びてきた。

 冷たいジャケットに包まれ、その間の胸に触れた顔だけ暖かい。

 車の鍵が収まっているキーケースは、玄関の棚に置かれたままだ。

「帰るなよ」

「ウサギ?」

「この部屋に戻って来いよ」

「ちょっと……」

「わかってんだろ、俺の気持ち」

 ウサギの鼓動が伝わってくる。

 わかってる、わかってるけど――……。

「そんなの、聞いてないもん」