アリスとウサギ


「何であんたが傷つくのよ? 傷ついてんのはあたしの方なんだから」

「はぁ? お前こそ何で傷つくんだよ」

 まだ好きだから。

 なんて言いたくない。

 知られたくない。

 だってウサギは、私じゃなくて他の女を選んだんだから。

 二人は互いに口を結び、目を逸らした。

 ウサギはタバコの火を消し、肺に残った煙をゆっくり吐き出す。

 アリスは手を組み伸びをして、ぐったりとソファーに横たわった。

 しかしあの夜のことが頭をよぎり、すぐに体を起こす。

「何か飲むか?」

「うん。あたしがやる。コーヒーでいい?」

「ああ、頼む」

 使い慣れた懐かしいキッチン。

 鍋などはいつもの場所に置いてある。

 カップも、コーヒーの粉も、砂糖も、ミルクも。

 すべてあの頃と変わらないのに。

 当時は通い合っていた二人の気持ちは、すれ違ったままだった。