アリスとウサギ




 それから数日、ウサギと顔を合わせる機会はなかった。

 マフラーを返そうと思い、大学へ行くときは常にバッグに忍ばせていたのに。

 未だに彼の香りを放ったままのそれは、諦めの悪いアリスの心をくすぶる。

 その度に愛羅との夜を思い出し、気持ちを怒りに切り替えて無理矢理バランスを取ろうとしていた。

 そんなある日の朝。

 大学へ向かう準備をしていると呼び鈴が鳴った。

 ドアを開けると、そこに立っていたのは熊谷だった。

 そのまま扉を閉めてしまいたかったが、彼の雰囲気に萎縮してしまう。

「お忙しいところ申し訳ありません」

 機械的な謝罪に不快感を覚えながら、アリスも機械的に「いえ」と応える。

 彼はスッとメガネを上げて、

「UT建設の熊谷と申します」

「はぁ。先日はどうも……」

「覚えていらっしゃったんですね」

「ええ、まあ」

「今日は啓介さんのことでお伺いしました」