アリスとウサギ


 目の前に、ウサギの顔。

 首に巻かれたカシミア生地のマフラー。

 ウサギはアリスの髪に手をかける。

 サラッと巻き髪が舞ったのと同時に心が跳ねた。

 ウサギの熱を首で感じ、暖かさとは裏腹にゾクッと鳥肌が立つ。

「寒いの苦手なくせに」

 ウサギはキュッとマフラーを締め、白い息を吐いた。

 ああ、あたし、まだまだこいつのこと好きなんだ……。

 でも、他の女に触れたその手で触らないで。

 下手に優しくしないでよ。

 もう忘れたいの……。

「ちょっと」

 文句の一つでも付けてやろうとしたとき、ウサギの携帯が鳴り始めた。

 彼はクルッと背を向け、ポケットから携帯を取り出す。

「どうした? ああ、うん」

 どうやら店からの電話らしい。

 アリスは首の温もりをどう処理して良いかわからず、じわりと目を熱くした。

 首をすぼめるとウサギの匂いが漂う。

「マジ、ムカつく」

 蚊の鳴くような小さな声は、白く濁って消えた。