アリスとウサギ


「おはよ」

 ウサギの声とアリスの胸が共鳴する。

「お……はよ……」

 アリスは笑顔を作ることもできず、目を丸くして応えた。

 ウサギは右の口角を持ち上げ、更にフッと笑ってアリスの列を通過。

 歩みに合わせて彼の髪は軽やかに弾んだ。

「ウサギのやつ、普通じゃないの」

 早苗のコメントに、アリスは長いため息をついた。

「うん。なんかショック」

 別れたことなんて気にもしていないような。

 むしろ二人の間には何もなかったような。

 それくらい、以前通りの顔をしていた。

 アリスの中に渦巻いていた気持ちや思い出を、バカにされたような気さえした。

「ムカつく」

 口の動きと息だけの呟きは、きっと早苗にしか届いていない。

 直後入室した教授がつまらない講義を始めた。

 後ろから三番目の席に座るウサギをチラ見。

 アリスは真剣にミクロ経済学を学ぶ彼を、一瞬見てすぐに前を向いた。