アリスとウサギ


 当然聞こえてくるのは愛羅の喘ぎ声だ。

 ウサギがアリスにするより激しく求めていることは、嫌でも聞き取れる。

「なあ、俺の過去とか、知りたい?」

 行為の最中だというのに、ウサギは冷めた声で問いかける。

「俺の親父のこととか、聞きたい?」

 愛羅は嬌声の合間に答える。

「そんなの、どうでもいい。啓介がいれば、それで――……」

 ウサギがアリスに求めていたのは、きっとこんな答えだった。

「だろ? お前はイイ女だよ、ミサ」

 ミサとは恐らく愛羅の本名だ。

「あたしのこと、好き?」

「ああ、大好きだよ」

 大好き、なんて、あたしにも言ってくれなかったくせに……。

 アリスはブランケットを頭までかぶり、必死で声を殺して泣いた。

 それでも愛羅とウサギの声は耳に入ってくる。

 アリスのジャケットの袖口は、絞れるほどに濡れていった。

 そして二人が二回戦に突入した頃、鍵をテーブルに置いて静かに部屋を出たのだった。