アリスとウサギ


 触れられた肩にじわり熱が伝わってくる。

 顔を見せろと言わんばかりに少しだけ力が加わったが、断固として振り返らない。

 アリスは顔を壁に向けたまま、声を出さずに涙をボロボロと流していた。

 こんな顔、今のウサギなんかに見せれるわけがない。

「帰って」

 もう一度そう言うと、ウサギが立ち上がったのを背に感じた。

「わかったよ」

 ふわっと部屋の空気が動き、5秒後、ドアの開閉の音を最後に静寂が広がる。

 涙を拭って起き上がると、テーブルに乗せていたノートPCの上にポツリと何かが乗っていた。

 触れるとヒヤッと冷たい。

 この部屋の、鍵。

 ウサギのために作った合い鍵だった。

 それが意味するところを、アリスはちゃんとわかっている。

 別れ。

 付き合い始めたのだって、よくわからない感じだった。

 長続きするとも思っていなかった。

 だからこんな終わり方でも、納得だ。