アリスとウサギ


「前にも言ったけど、俺にはアリスに知られたくない過去がたくさんあるんだよ」

 再度放たれた寂しいセリフ。

 ウサギは何をどうして隠したがるのか……。

 まだ見えない。

「過去? 熊谷さんが来たのは今日じゃない」

 いつもとは違うアリスの返し方に、ウサギも戸惑っているらしい。

「あいつは知られたくない過去の宝庫なんだ」

「過去の宝庫なのに、どうしてあたしのことまで知ってるの?」

「は?」

「熊谷さん、外の廊下ですれ違いざまに声をかけてきたの。わざわざあたしをフルネームで呼び止めてね」

「マジかよ……」

「調べられてるなんて気持ち悪いじゃない」

 ウサギは再び黙ってしまった。

 そして数秒沈黙が流れた後、

「……時間だ。仕事終わったらそっちに行く」

 と、苦しさ混じりに電話は切れた。

 プーッ プーッ……

 やけに響く音に助長され、目の端から涙が流れる。

 アリスは手の甲でそれを強く拭い、起き上がった。