アリスとウサギ


 二時間後。

 名刺に気付いたウサギは鳥肌が立つほど低い声を出した。

「おい、これ、何だよ」

 名刺が彼の機嫌を損ねたのは明らかだった。

 アリスは味噌汁を温めながら平静を装う。

「家のことでまた来るって言ってたけど」

 クシャッと名刺を握りつぶす音がした。

 どうやら熊谷は歓迎すべき来客ではなかったようだ。

 ウサギは無言で名刺をゴミ箱に入れ、寝室へと入っていった。

 味噌汁と筑前煮が温まり、器へ移そうとしたとき。

「俺にはもう関係ないっつってんだよ! そっちで勝手にやればいいだろ!」

 寝室から怒鳴り声が聞こえた。

 さすがに心配になったアリスは、そっとドアを開けてみる。

 背を向けてベッドに座り、グシャッと髪をかきあげるように頭を抱えたウサギが見えた。

 アリスに気付いた彼は電話を耳に当てたままこちらにやってきて、入室を拒否。

 ドアは乾いた音を立てて閉まった。