このマンションはセキュリティーの関係上、来客はロビーのインターホンを押して、住人にロックを解除してもらわなければフロアに上ってこれない仕組みになっている。
それを突破したということは、何かの業者だろうか。
男は用事か済んだのか、ウサギの部屋の前から離れ、こちらに向かって歩きだした。
エレベーターに乗るのだろう。
しかし様子をうかがっていたアリスと目が合うと、足をぴたりと止めた。
「有栖川奈々子さんですね?」
「え……」
見ず知らずの男。
しかし名前を呼ばれてしまっては、体が反射的に立ち止まってしまう。
アリスはこのマンションの住人ではないし、ここに出入りしていることを知っているのは早苗くらいだ。
銀縁のメガネの奥の眼光が、ただ者ではないと物語っているようだった。



