アリスとウサギ


 何でもないようにPCに目を移したウサギを見てやや安心。

 でも、やや不満。

 何か反応しろよ。

 女のこんな姿、見慣れてるってわけ?

 いやいや、そうじゃなくて……着替え、どうしよう。

 アリスは固まったままウサギから目を離せない。

「そんな格好、また熱出すぞ」

「わかってる。わかってるけど……」

「それとも」

 パタン、とPCを閉じたウサギが立ち上がる。

 束ねた髪の毛から、滴が垂れた。

「アリスなりに誘ってるの?」

「なっ……」

 何言ってんのよ、と。

 言いかけてやめたのは、ウサギがもう目の前にいたからだ。

 クッとのど仏が大きく動く。

「今、俺の喉見ただろ」

「……見たけど」

「意識してる?」

 心まで震わせるハスキーボイス。

 顔を見ると右だけ口角を上げた、意地悪な顔をしていた。

「ちょっとだけ……ね」

「珍しく素直じゃん」

「バカにしないでよ」

「してないよ」